
石川県輪島市で、築80年以上の古民家を譲り受け、住宅から旅館へ用途変更し、リノベーションを行ったプロジェクト。
能登半島北部に位置する奥能登は、輪島市・珠洲市・穴水町・能登町の2市2町からなる。日本海に突き出した半島特有の地理的環境のなかで、自然と暮らし、伝統産業、祭礼などが密接に結びつき、独自の文化と景観が受け継がれてきた地域である。
2024年1月1日に発生した令和6年能登半島地震と、同年9月の奥能登豪雨によって、この地域は道路や上下水道などのインフラをはじめ、住宅、観光、伝統産業など広い範囲で甚大な被害を受けた。2026年現在も、各地で復旧・復興に向けた取り組みが続いている。
本プロジェクトでは、古民家を旅館へ用途変更するにあたり、復興の進捗とともに変化していく地域の宿泊需要を、建築計画そのものに取り込むことを考えた。
道路や建築、設備などの復旧工事が集中的に進められる当面の期間は、復興に携わる人々の滞在を受け入れられるよう、既存の大きな空間を複数の客室に分け、宿泊可能人数を確保する。一方で、復興工事に伴う宿泊需要が落ち着いた後には、間仕切りを再編し、客室面積を広げた宿泊施設へと再び更新していくことを想定している。
つまり、一度の改修によって建築を完成させるのではなく、地域の復興段階に合わせて、建築の使われ方そのものを段階的に変化させていく計画である。
奥能登の古民家には、日本海からの強い季節風や降雪、塩害などの厳しい自然環境と向き合いながら、人々の暮らしや地域のしきたりを受け止めてきた独自の建築文化が残されている。
外観には黒瓦や下見板張りが用いられ、内部には仏間を中心として座敷が連なる「鍵座敷」など、奥能登特有の空間構成が見られる。大きな仏間や座敷は、日常生活の場であると同時に、冠婚葬祭や親族、地域の人々が集まる「ハレの場」としても機能してきた。
今回の第一段階のリノベーションでは、こうした古民家がもつ空間の骨格や潜在的な価値をできる限り継承しながら、現在必要とされる宿泊室数を確保することが求められた。
そのため、現在設けている細かな客室の区画を、この建物の最終形とは考えていない。将来、地域の状況や宿泊者の需要が変化したときには、再び間仕切りを解き、大きな空間として使うことも想定している。
震災からの復興過程にある奥能登では、必要とされる建築の役割も、時間とともに変化していく。過去の姿をそのまま保存することでも、現在の用途だけに最適化することでもなく、地域が置かれている「いま」に応えながら、その先の変化を受け入れる余白を残すこと。
その場所と、その時間に必要とされる役割を引き受けながら、次の使われ方へと更新できる建築をつくることを、この計画では試みている。




所在地:石川県輪島市
構造規模:木造地上2階建て
延床面積:380㎡
竣工:2026年7月
施工:ACE Co., Ltd.
撮影:松尾勝司

